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◆河童倶楽部通信 12   景観を感じる"こころ"について
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 先回は「風景は視覚だけではなくて、五感すべてで感じとるものでは?」
という話をしました。五感とは、人間が感じることのできる「視る」「聴く」
「味わう」「触れる」「においを嗅ぐ」という感覚を言いますが、最近の
技術進歩によってそれぞれ一部の目的に特化されてはいるものの、センサー
として電気製品等に組み込まれるようなってきました。カメラやマイク、
スイカやコメなどの味覚判定装置、温度センサーやガス漏れ警報機などが、
代表的なものと言えるでしょう。
 
 ところが同じ風景一つを見ても、人によって、あるい状況によって印象
深さや感じ方が異なるものです。例えば海に沈む夕陽一つにしても、感傷
行中に一人で見たものと職員旅行で見たものとで、印象深さが異なります。
あるいは、小学校の校庭の桜の花が、大人になってから見るどんな桜にも
増して美しく感じられるといったことはありませんか? つまり人間にとっ
て、五感とは、あくまでも風景を情報として感じとるセンサーにしかすぎ
ないということです。そして風景を心に焼き付けるには、”こころで感じる
能力”が大切であるということです。五感については、体に障害を持つ人を
除けば極端な個人差は無いと思われますが、「こころで感じる能力」につ
ては、どうやら人によって極端に違みたいです。私の周囲には、その能力
がほとんど無いと思える人もたくさんいるし、逆に体には障害を持っている
けれどもその能力に溢れているような魅力的な人もいます。また年齢や心理
状況によって心で感じる能力が弱まっているからこそ、桜や夕陽の印象
異なってくるのではないでしょうか。
 
 人間の能力には二通りのものがあり、「からだの能力」と「こころの能力」
とがあります。からだの能力はいろんな測定方法があるので、優劣がハッ
しています。ところがこころの能力は、ものさしで測ることができないので、
自分は他の人と較べてどれだけの能力があるか知りにくいものです。テストの
点数に現れる能力は、記憶力とか分析力といったものですから、学校の成績が
悪くてもこころの能力が優れている人は大勢いて、それが私にとっては最大の
人間的魅力として感じられます。
 
 都市景観は、主として視覚で捉えてこころで鑑賞するものですが、一方では
こころの能力を育てる場所という存在だと思います。「こころの時代」と呼ば
れる昨今において、教育とか人間形成に関していろんな議論がされています。
その中で私が共感するのは、「幼児期から少年期の時代を、豊かな風景や美
い景観の中で過ごすことが、人としてのこころで感じる能力を育む」という
考え方です。「都会は便利だけれども、田舎の方が人間らしく暮らせる環境が
ある」というのは、豊かな風景や自然が都会から失われていることを言うので
しょうが、都市景観はそれらを補うものだと考えます。都市が発展とともに
コンクリートと鉄に埋め尽くされていく中で、秩序あるデザインにより配置
された施設や植樹によって、こころに安らぎが生まれたり、何かを感じ取った
りするものです。それが都市景観であり、自然の広大な風景にはかなわなく
とも、多くの人々が日常生活する場所に必要な、こころを育てる要因になると
考えられています。
 
 私は景観を創造することに関わる仕事をしています。美しい景観を創るに
は、景観を感じ取る力が必要であり、それがないと人の心を動かす仕事が
できないと考えております。そのためには、優れた景観を積極的に鑑賞して、
自分なりに考えながら、身近な人にも伝える必要があるとの思いから、河童
倶楽部通信を執筆しております。明日は休暇をとって神戸へ出掛けてきます。
毎年この時期に行われる「ルミナリエ」という、国内最大の光のイベントを
視察するためです。本誌は職場の同僚や上司にも電子メールでお届けして
おりますが、どうかそのへんのところのご理解とご支援をいただくよう、
よろしくお願いします。 m(_ _)m
 
┏■レトロなバスのデザイン        @彦根市、A鎌倉市━━┓
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 先回は、幕張の最新型の連接バスを紹介しましたが、大都市や観光地に
行くと見ただけで乗りたくなるようなユニークなバスが多数登場しています。
こうしたバスは建物や街路樹と違って、動き回っているので、それに巡り
会うには時間とチャンスが必要で、カメラに収めるのもかなり苦労します。
景観には、こうした動きのある、どちらかというとソフトウェア的な物も
街の魅力を向上させるために一役買っていたりするのではないでしょうか。
滋賀県彦根市 彦根ご城下巡回バス
 最初の写真は、滋賀県彦根市に近江鉄道が走らせている「彦根ご城下巡回
バス」です。これは、いすゞ自動車が昭和40年代に制作した車体を整備して
観光シーズンの週末などに季節運転しているものですが、一区間百七十円と
通常の路線バスと同じ感覚で利用できます。車掌を兼ねた案内のおじさんが
添乗していて、彦根観光の名所などを話してくれます。流石に年代物だけ
あって、車内はエアコンもなく油の臭いが充満していたり、エンジンの音と
振動も凄まじいけれども、外の空気と一体化している感覚もあり、意外と
心地よく感じる人もいるようです。
神奈川県鎌倉市 りんどう号
 次は、同じくボンネットバスと表現できるタイプの物ですが、こちらは
京浜急行が、神奈川県鎌倉市の[鎌倉宮←鎌倉駅→鎌倉大仏]の間を走ら
せているレトロ調の最新型路線バス「りんどう号」です。幅2.5m×長12.0m
という車両制限令の範囲内で、これだけのデザインができるとは、発想の
豊かさに驚くばかりです。車両前面が非対称となっていて、降車用の階段
が扉の外にあることと、後方に展望デッキが設けられているのが特徴です。
 このバスを制作した日野自動車のホームページを覗くと、他にも数々の
独創的な常識はずれのバスを生み出していることがわかります。
http://www.hino.co.jp/spl/bus/hnsplbus1.html
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