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◆河童倶楽部通信 19  蘭学のススメ。  
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 先週末、ちょっと思いきって、長崎へ出掛けてきました。
金曜日の仕事を終えてから、着替えと入浴のために慌ただしく自宅へ立ち寄ると、
「帰りは月曜日の夜になるからねー・・・。」という言葉を残して、一人で出発。
 
 名古屋の名鉄バスセンターを20:30に発車する夜行バスに乗ってしまえば、あと
は寝てるだけで、翌朝8:55にはハウステンボスの入国ゲート前に降り立つことが
できる。凡人が寝ている間に、異次元の世界に移動できるとは、便利な世の中に
なったものである。片道12時間という移動時間について、
「それだけの時間があったら、名古屋空港からヨーロッパに行けるんじゃん。」
などと言われたりもしたが、手軽さという意味では全然違うと思う。パスポート
やビザなどの面倒な手続きも要らないし、切符も直前に最寄りの駅で買えばよい。
片道1万2千円程度の運賃も飛行機や新幹線の半額だし、現地で朝から行動でき
るとなれば、ホテル代も丸ごと節約できる。日常を「職場」と「家庭」とを結ぶ
単純往復運動に明け暮れしている日本のビジネスマンにとって、夜行バスは新た
なライフスタイルの可能性を秘めた移動手段であると感じている。
 
 帰りも同じルートを戻れば往復割引の特典もあるのだが、長崎市内の街づくり
を調査したかったので、ハウステンボスに一泊したあとで長崎に寄ることにした。
 長崎はいろんな歌にも登場するエキゾチックなムードが漂う街。前川清さんが、
「ああああー、長崎〜は〜、今日も〜、雨〜だーたぁ〜」って歌っていた通りの
ぐずついた天気だったとはいえ、2日間で700枚余りの写真を撮りまくったあと、
長崎発19:30発→名古屋7:25着の夜行バスで、非日常的な週末に終わりを迎えた。
 月曜日の朝はそのまま出勤して、更衣室のロッカーに旅行カバンを放り込むと、
予め持ち込んでおいたワイシャツに着替えて、何気ない顔をして仕事をスタート。
金曜の夜から月曜の朝まで、普通の人にはただ仕事から開放された束の間の瞬間。
そんな短い時間に、私が遙か1000キロも離れた異国的な街に出掛けてきたなんて、
気づいた人は、ほとんどいなかったに違いない。
ハウステンボス、運河とオランダ建築  

┏■テーマパークの景観と演出について ━━━━━━━━━━━━━┓
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 ハウステンボスが誕生したのは平成4年。もともと大村湾に面した何もない
荒れ地だったところに270億円の費用をかけて土壌改良を施し、街を創った
とのこと。オランダ風車の廻るのどかな田園風景やレンガで作られた賑やか
な街並み、運河を行き交う船や街路を走るクラシックな乗り物。どこを見て
も今自分が日本にいることを忘れてしまう洗練された風景が再現されていた。
たぶんそこは、本当にオランダのようであった。本物のオランダを見たことが
ないけれど、もし違っていてもそんなことはどうだっていい。とにかく建物の
一つ一つや街路灯や街路樹、運河を泳ぐアヒルの群れや橋の数々、街の活気、
そして風までも、オランダの香りが漂っていた。
 
 日本でも地方を旅行すると、京都らしい風景とか、漁村らしい風景などと
いった街独特の雰囲気を「○○らしい」といった表現をするけれど、ここは
"オランダらしい"と言うんじゃなくて、まさに"オランダの"風景そのものの
街が形成されていた。いろんな地域それぞれに「景観条例」などのルールに
よって、長い歴史とともに形成された街並みの雰囲気を残そうとする努力が
されているだろうけど、それでもそこに住む人々がいる以上は、思い思いの
建物が生まれ、修景を施しつつ古い新しいが混在した街に変わっていくのは
やむを得ないこと。しかしハウステンボスは、152万uという壮大な敷地
という真っ白な画用紙に、まず10のエリアを配置し、運河と道と橋で結び、
エリア毎にテーマを持った建物を計画的に並べていく。とことんオランダに
こだわって何枚も何枚を設計図を描きながら、構想をまとめていったことだ
ろう。行政として都市計画を考えるのと違って、既存の制約が何もないとこ
ろに理想の街を設計する作業は、きっと楽しいものだったに違いない。
 
 各地にテーマパークといわれる施設がたくさん誕生している。その多くは
アミューズメント系というか、中に点在するアトラクションを楽しむ施設だ
と思うが、筆者にとってハウステンボスは、景観を鑑賞する場所でもあった。
上の写真は、運河に面した街の一部分であるが、建物の一つ一つが個性的な
表情を持っていて、石やブロックやレンガを積み上げて造っている。護岸や
舗道のブロックや、植樹や花壇の1本1本の花に至るまで手抜きをすること
なく完璧な状態で整備されている。なかなかできない立派なことだと思う。
そうした部品の一つ一つの組合せが、訪れる人の心に感動を与えてくれる。
 
 やがて夜8時になると、街の照明が一斉に消えて、海の彼方から神秘的な
音楽が鳴り響いてきた。「サウンドギャラクシー」という一日のフィナーレ
を飾るイベントである。レーザー光線が夜空を飛び交い、シンセサイザーや
時計台の鐘の音が街のあちこちで響きあう。音楽に合わせて空の闇を照らす
色とりどりのレーザーの光は左右に揺れ、光の帯は細く広く変化し躍動する。
海を望むれんが造りの建物のライトアップや樹木のイルミネーションも一斉
に灯り、「海」と「空」と「街」、そして「人々の拍手」が一体となって、
すべての雰囲気は最高潮に達していく。今までこんな感動があっただろうか。
いつまでも余韻が心と体の中に残っていて、声が出ないほどの感動があった。
心が震えるというのはこういうことかと気付き、涙が溢れてきて止まらない。
「すげーなぁ。ほんとーにスゴイよ〜。」と、何度も独り言をつぶやいては、
充実した一日を振り返りながら出国ゲートへ足を進めつつ、細君に電話した。
「どえりゃぁー、感動しちまったよ〜。ここに来て、ほんとーによかったよ」
と自分のボキャブラリーではとても表現し尽くせない感動を伝えたのだった。 
 
ハウステンボス 噴水のある広場
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