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◆河童倶楽部通信 20
  建築様式で見る、景観の楽しみ方。  
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 ハウステンボスについて、岡崎市のKさんよりフォローを頂きました。
たいへん奥行きが深くて、示唆に富んだコメントが圧縮されていました。

> 私はHuis Ten Boschにはまだ行ってません。
> Amsteldamや、オランダの他都市へは、1990に一人旅しました。
> 今回の写真をみて、「切妻」住宅の言葉がピンと来ました。
> Amsの建物はすべて「切妻」なのです。
> 道路に面した建物の幅で課税される(された)からです。
 
> さらに、Amsのペントハウスには、どの家も滑車がついています。
> 建て階数は街じゅうが5-7階程度 (つまり、人口密度世界一の国に
> なるわけです) ですが、家具を引き入れるのに、滑車が必要です。

 このメールを拝読して、なぁ〜るほど〜なぁ...と感心したは、まず
街の景観鑑賞には2つの手法があるということ。一つは雰囲気とか色彩、
あるいはバランスやリズム感などといったのイメージで観る方法と、もう
一つは建築様式や材料、気候・風土や歴史・文化などの背景も考えながら、
科学的視点で鑑賞する方法だ。前者は「心」で感じる部分、後者は「頭」
で考える部分と言ってもよいかと思う。私はこれでも土木工学の技術者の
端くれだから、この河童倶楽部通信はできる限り、頭で分析することを
目指していきたい。そんな訳で、今回は建築様式について少し勉強した
ことを整理してみた。
ハウステンボス 夕暮れ時の景観 
 まず「切妻」について百科事典で調べると、下記の説明があった。

日本の木造住宅の屋根は、切妻造(きりづまづくり)、寄棟造(よせむねづくり)、入母屋造(いりもやづくり)の3種類を基本とする。
「切妻造」は、屋根の頂上部である棟から左右にくだる2つの屋根面で構成される。屋根が外壁面と交わる部分にできる3角形を「妻」とよび、妻のある側面からみると、屋根を妻で切ったように見えるので、切妻造の名がある。
「寄棟造」は、4方に屋根面が広がる形で、棟に4つの屋根面が寄り集まるため、寄棟造という。
「入母屋造」は、切妻造と寄棟造が合体したものである。切妻造の妻側面にも屋根を設け、4方に屋根をめぐらすが、側面の屋根は棟までのぼらず、3角形の屋根の妻が見られる。
【Microsoft(R) Encarta(R) Encyclopedia 99より】
和風住宅の屋根の形状

 建物は基本的に「屋根」と「壁」との2つの部分があり、壁が屋根に
食い込む△型の部分を切妻ということが分かった。ところがオランダ建
築の写真を見て気付くと思うが、屋根と壁との関係が、日本建築と逆に
なっている。つまり日本建築は壁(妻)の上側に屋根が乗り、庇(ひさし)
が壁面より張り出しているのが一般的である。それに対してオランダの
建物は、壁が天まで突き抜けて、その裏側に屋根がくっついているのだ。
まるで学芸会の舞台セットのような印象を受けるのもこのせいだろうか。
 
 日本の木造住宅の外観は屋根に趣向を凝らすのに対し、オランダでは
通りから屋根が見えないので、壁や窓にいろんな装飾が加えられている。
外壁材料(色彩)はレンガを基調として、窓枠やエッジの部分に白を使う
ことによって、明暗がクッキリしていて、引き締まった印象を受ける。
きっとオランダの人は、家を造る時に、景観をとても大切に考えている
のだろう。
 
┏■オランダ都市の人口集中について ━━━━━━━━━━━━━━┓
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 日本の建築基準法では、建ぺい率という規制があって、例えば土地の
面積に対して建物を60%以内にしましょうなどといったルールがある。
これは、木造家屋が中心で火事が多い国だから、防災的な目的によるも
のだと考えられる。それに対してオランダの建物を見ると、庇がなくて、
前も横も敷地いっぱいに建物が建っていて、建ぺい率が限りなく100%に
近いような印象を受ける。防災的には建物が燃えにくい石でできている
し、町じゅうには運河があり、水も豊富で延焼の危険がなさそうだから、
いいのかもしれないが、どうしてこんなに窮屈な生活をしているのだろ
うかと、いろいろと想像してみた。
切妻作りのオランダ建築群 
  ■□■日本とオランダの比較■□■
         (日 本)   (オランダ)
   人 口:  125百万人  15百万人
   面 積:  378千km2    41千km2
   人口密度:  335人/km2 377人/km2 
 
 上の数字を見る限りでは、オランダが思ったより小さな国であること
がわかるものの、東京都と同じぐらいの人が九州ぐらいの面積の土地に
住んでいるのだから、それほど窮屈な印象を受けない。最大の特徴は、
日本は山ばかりで平野が少ない国だが、オランダは国土のほとんどが、
海抜50m以下の土地であり、しかも半分は海面下にあるということだ。
だから治水の面で、人が住むのに適した土地が少ないのかもしれない。
 
■オランダの主な都市と人口(1994現在)は、次の通り。
 ◇アムステルダム(人口72万4096人):首都、
 ◇ロッテルダム(59万8521人):世界有数の港湾都市、
 ◇ハーグ(44万5279人):政治の中心地、
 ◇ユトレヒト(23万4106人):産業の中心地

 日本には、人口100万人を超える都市が、東京、横浜、大阪、名古屋、
札幌、神戸、京都、福岡、川崎、広島、北九州と11もあることを思えば、
オランダの都市は、日本の地方都市並でやや小さいといった印象である。
きっとオランダの都市は、治水等の防災面の安全確保や、水道や下水、
電気・ガスなどのライフライン確保にコストが掛かるだろうから、面積
を広げられない事情があるのではないだろうか? それゆえに都市内の
地価や課税が高く、このように人口密度の高い建物ばかりになったのか
と思われる。アムステルダムの人口密度は東京並以上かもしれないけど、
なんとなく生活環境としては、ずっと恵まれているような気がします。
オランダ村の前面に傾斜した建築物 
 
 上の写真で、最上階の窓の上に白い鉄骨のようなものが出ているのが
分かるでしょうか。オランダの家では家具を窓から入れるため、そこに
滑車を付けて家具を吊り上げる時に使うものらしい。また現地で実際に
見て感じたことだが、手前2軒の建物はその向こうの白い建物と比べて
壁が道路へ覆い被さるように少し傾斜して建てられていた。これもオラ
ンダ独特の建築方法で、家具をつり上げるときに壁にぶつからないよう
にする工夫だと説明されていたが、ちょっぴり疑わしい気がしている。
こうしていろいろ調べていると、自分の心がだんだんアムステルダムに
吸い寄せられていくような気がするのねぇ〜。 (-_-;) 

 
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