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◆河童倶楽部通信 23 門前通りを支える老舗の風格について   
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 日曜日の朝刊紙面には、ツアーの広告がたくさん載っている。海外旅行
から日帰りのバス旅行に至るまで、実に多彩なプランが目白押しである。
片道の飛行機代よりも安い値段で、北海道一泊二日でカニの食べ放題とか、
見ているだけでため息が出るような魅力的な旅行プランが満載されている。
日本は今、ほんとうに豊かな時代なんだなぁとつくづくと実感してしまう。
 
 ほんの百年ちょっと前までは、「旅」に出るというのは、一生に何度も
できない庶民の夢であった。日本で最初に鉄道が開通したのは1872年。
それ以前の旅行手段といえば、歩くことだけだった。そして旅行の目的地
といえば、今のようにテーマパークや美術館などの文化施設のない時代、
神社やお寺に参拝することが旅の目的だった時代が何百年も続いていた。
 
 平安時代、都の貴族たちが「熊野詣」に出掛けたのが、日本の歴史に刻
まれた最初の旅行のようである。この時代に、一部の貴族だけに許された
お詣りという行楽は、江戸時代になり東海道五十三次などの街道と宿場町
が整備されるようになると、庶民も一生に一度の「お伊勢まいり」などに
憧れるようになった。やがて伊勢神宮だけでなく、出羽三山とか善光寺、
金比羅山や四国八十八か所など観光地に人が集まるようになっていく。
 泊まりの旅行が一生に一度なら、日帰りのお詣りに毎月一度は出掛ける
ようになる。江戸の都では、柴又の帝釈天などが、庶民の代表的な観光地
として賑わっていたと想像される。
柴又帝釈天門前、高木屋さん
 上の写真は、東京都葛飾区柴又の帝釈天門前通りの代表格的存在である
高木屋さんの店頭である。ここのお店は、渥美清主演の「男はつらいよ」
シリーズで、寅さんの帰省先の「とら屋」としてロケに使われていたとの
ことで、全48巻のビデオを鑑賞した筆者にとって、愛着のある店構え
ある。ひさしの上には、老舗としての風格が漂う重厚な看板が掲げられて
いて、名物の「草だんご」や「寅さんせんべい」に多くの人が引き寄せら
れていた。
 
 江戸時代に、何時間も歩いて帝釈天にお詣りに来た人達は、目的を遂げ
ると、ほっと一息ついて、昼食やお土産を買いたくなる。そうしたニーズ
に応えるために生まれたのが「門前通り商店街」だったのではなかろうか。
当時の庶民は、奉公先から月に一度きりのお休みとお小遣いをもらって、
ここへやって来た。あるいは商家の奥方にお供してやって来たことだろう。
  
┏■庶民的な名物の開発と集客力について ━━━━━━━━━━━━┓
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 筆者が小学校の修学旅行で最も楽しかったのは、京都は新京極商店街で
一人2千円のお小遣いであれこれと、お土産を買ったという思い出である。
日頃から自由な買い物が許されている今の子供たちには理解できないこと
だと思うが、江戸時代の庶民にとって門前通りは、非日常的な場所として、
楽しいショッピングや飲食が許された、夢のような場所であったのだろう。
 
 門前通りの店構えの特徴は、通りに向かって商品を並べていることだ。
これからお詣りに行く人には、明るく声を掛けて関心を引こうとしている。
印象に残る対応をすることで、帰りに寄っていって下さいとアピールする。
また用事が済んでくつろいでいる人には、中でゆっくりとお茶でも飲んで
いって下さいと疲れをいたわってくれる。門前通りとは、そうした対面的
な営業をしているので、絶えず活気が満ちていて、人の歩みも自然にのん
びりしたものになっている。スーパーやコンビニでは見ることのできない
こういった雰囲気、なかなか心地よかった。
 今どきの街なかでは、電卓をたたかないとおつりを計算できなかったり、
マニュアルを棒読みしているかと思えるような感情の込もらない応対をす
る店員がうじゃうじゃいるように思われる。だけどこの門前通り商店街
店員さん達は、みんな自然に生き生きとしていて、たいへん印象的だった。
 
伊勢神宮(内宮)門前の赤福さん
 
 上の写真は、三重県伊勢市の伊勢神宮に続く参道『おはらい町通り』の
赤福本店の賑わいです。店頭には大きなお釜があって、薪でお茶を沸かし
ている。特に寒いこの時期は、お釜から立ちのぼる湯気が抜群の集客効果
を発揮しているように感じられた。 
赤福餅 
 ここの名物は、たぶん全国的に有名な「赤福餅」。かつて
「ええじゃないか、えーじゃないか、えーじゃないか。
              伊勢〜の名物、赤福餅はえーじゃないか」
という、歯切れのよい歌がテレビコマーシャルで流れていて、それが今も
頭の隅っこで鳴り響いていると感じるのは、筆者だけであろうか?
 
 餡を白いお餅で包んでいるのはよくあるが、赤福餅はまったくその逆。
舌触りのよい甘くてふわっとした餡の中に、柔らかいお餅が入っている。
何度食べても美味しいものは美味しいと絶賛するファンが多いのでは?
 
 ちなみにここでは、直径12センチほどのお皿に赤福餅3つと、番茶が
ついて230円で味わうことができるとあって、お座敷は超満員の大盛況
この他、毎月1日に限定で売られる「朔日餅」とか、季節限定の「赤福氷」
などの魅力的な商品企画もあり、安くて気軽に入れるお店だった。もしも
赤福本店が地元にあれば、私など会社帰りに毎日でも立ち寄っていること
だろう。

 
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