【常呂町:オホーツクの自然を生かした、子供達の自然体験活動】


 北海道の東の果て思われるオホーツク海に面する常呂町(現在は市町村合併で
北見市となっている)の山間部に、子供たちに北海道ならではの大自然を体感させたい
との思いから立ち上げたNPO法人“自然体験村 虫夢ところ昆虫の家”がある。
 北見市は中央分離帯のある広い道路が縦横に走り、全国チェーンの店舗が連なる
想定外の大都市であったが、そこからトンネルを越え、見たこともないような大型の
農業機械さえ、ポツンと小さくみえるような広大なうねった畑が広がる丘陵地を越え、
未舗装のぬかるんだ道路を走り抜けた山の中に、きれいに整備されたこの施設があった。
 平成16年度の『手づくり郷土賞』〔地域活動部門〕を受賞しており、筆者が訪れた1095箇所め
施設となった。地域活動部門は、施設というより団体(人々)が表彰対象となっているため、そこを
取材するのは、なかなか難しかったりする。公園や河川などの施設や場所が対象ならば、
エブリータイムに自分勝手に立ち入って好きなだけ写真が撮れるのだが、相手が人々というと
本来ならあらかじめ「愛知県の河童倶楽部という手づくり郷土賞を取材している・・・」と申し込みを
しておき、現地の活動されている時間を聞いて訪問する必要があるかと思う。しかし今回も
長距離の遠征取材の中でふらっと立ち寄ったため、そこの人々に会えなくても、日頃活動されて
いる場所を外から写真を何点か撮らせてもらえばよいという軽い気持ちで訪問した。

 北海道の地勢は、本州や四国の急峻な山岳地帯というイメージとは全く異なり、なだらかな丘が
幾つも連なり、植林されていない自然のままの雑木林が山を包み込んでいる。だから、人里離れた
こんな山の中なのに、不思議と緑の芝生と池を囲んだ平屋建てのいくつもの建物が集約された
昆虫の家が目の前に現れた。

筆者を暖かく迎えていただき、取材に
協力していただいた若原事務局長

 道路沿いの駐車場に車を止めて、新鮮な空気を吸い込んで、施設周辺の雰囲気を観察していると
わんわんわん・・・と、はるか彼方から元気に駆け寄ってくる黒いワンちゃんが出迎えてくれた。
外周部に壁や垣根もなくセコムのセキュリティも何もない開放的施設であるけれど、しっかり番頭
さんの役目を果たしているこのワンちゃん。後にここのオーナーである若原さんに親しく迎えていただ
いてからは、全く吠えることもなく、尻尾ふりふりフレンドリーの関係になる忠犬ぶり、なかなか
たいした名犬であった。

 この若原事務局長さんは、筆者の突然の訪問(取材申し込み)に対して、
「こんなバカなことばかりやっているところだけど、よく見てってください・・・」と、快く迎えてくださった。
気がつけば、なにやら子供たちの唄う賑やかなテーマソングがBGMに流れており、知らないうちに
彼の気さくなペースに吸い込まれてしまったという、不思議な魅力を持つ“とっさん(自称)”であった。
「まず最初に、オレの車ですぐそこの山の上さ行って、最近やっている活動を見てもらうだ」と
畑の中のタイヤが横滑りしそうな道なき道をどんどん登ったところに車を止めると、紅葉に染まる
色とりどりのバッチワークのような一面の山々の中で、対面の山肌の中に「と」「こ」「ろ」という
文字が書かれているではないですか。
 昆虫の家で過ごした“思い出の玉手箱”を持った子供たちが、いつかこの地に戻ってきたときに、
女満別空港に降りる飛行機の窓に向かってのウエルカムメッセージを送るために、赤松を植えて
一文字50m角の文字を、地元メンバーが力を合わせて維持管理を続け9年目になるとのこと。
「自分たちが土に還っても、この大地に大きな軌跡を残したいと、今後さらに文字の回りに
ピンクの桜(芝桜?)を植えるだ」と熱き思いを語っていただいた。
 この虫夢(むーむー)ところ昆虫の家の発足は、平成元年に創始者:滝沢 始さん旧常呂町立
吉野小学校の廃校校舎(その時はすでに養豚場として使用されていたもの)を買い取って、
それを手づくりで全国の子供たちにオホーツクの大自然を体感してもらう施設を創りたいとの夢から、
カブトムシやホタルなどの昆虫を育てる施設等に改修したことからスタートしたとのこと。
 滝沢氏が夢の実現半ばにして亡くなったあと、常呂町の有志の人々がその意志を引き継いで、
色々とアイディアを出し合って施設や活動の充実を発展を重ねてきて、今では数々の表彰を受け、
テレビ取材を受ける程になってきた。たまたま役所に勤める若原さん夫妻がこの場所に移り住み
施設を管理しつつ組織の事務局長をされていることも伺った。
 とにもかくにも、別に本業を持つ人々が休日返上でここに集まり語り合い、コンコンと湧き出る
アイディアをひとつひとつ形にしていくバイタリティ豊かな行動力には頭が下がる思いがした。
筆者も若原さんと同じ土木行政に取り組む公務員としてあるだけに、自分の郷土のためにできる
限りの時間と労力と私財を投入して、お金にならないけど、職場だけでは満たされない地域貢献
という自分の心の中に「自分がここで生きている」ことの存在感を形にするパワーが、ひしひしと
伝わってきた。

 現在行っている新しい活動は、昆虫の家につながるエントランス道路に沿って
桜とナナカマドを交互に植えているとのことで、こちらも車で案内していただいた。
北海道札幌市に本社のあるニトリもスポンサーとなってこの事業を支え、全国に点在する
沿道の土地所有者の同意を取り、大勢の参加者とともに植林して、その後の草刈り等の管理も
つづけているとのこと。参加者の一人一人に夢がなければできないことだと思う。
 ここが最も活気づくのは、夏に全国の子供たち20人を集めて、40人の大人たちが
いろんなメニューで13泊14日で自然体験を行うプログラムであろう。
2007年8月に行われた様子をDVDをお借りして見せていただいたが、
常呂川をいかだで下ったり、サロマ湖で砂鉄を集め、たたら製鉄をしたり、
オホーツク海でホタテ漁、壁画を創りその前でキャンプファイヤーをしたり、
昆虫採集と標本づくり、そば打ちに紙漉き、ハンドベル演奏に五右衛門風呂・・・
とにかく、内地(北海道の人は本州以南をこう呼ぶ)では絶対に体験できそうも
ないことを、次々にこなしす豊かなメニューに、子供たちが日を追う毎に成長して
いくようすが収録されていた。

北海道まで、飛行機で2時間で行けるとはいえ、なかなかおいそれと再訪することはできないと思う。
だけども、北海道とか沖縄とか、日本国内には遠い世界が色々とあり、そこには地元の日常生活で
見る世界とはあきらかに違う風景があり、まったく違う時間が流れている。
 見渡す限り一直線の道路が続き、人間の手で破壊されていない自然風景に包まれた世界が
広がる場所は、地元にはほとんど残っていない。かつて筆者がティーンエイジだった頃、北海道を
20日間自転車で走り回ったことがある。その時の感動があったからこそ、その後の自分の価値観が
あり、数々の分岐点でポイントを乗り換えてきて現在のところまで来ているような気がする。
 そんな体感して心に焼き付けた原風景を、これからもずっと残して欲しいし、できれば再び
訪れてみたい。そういった気持ちから、河童倶楽部も、ところ昆虫の家の会員に加えていただき
これからの活動をサポートしていくことといたしました。

列車を改築した宿泊施設。

ホタルの棲む水辺づくり

世界の蝶の標本展示

建物の外壁にも、全て手づくり(手描き)の絵で埋め尽くされている。

三角屋根のコテージもある。

虫夢ところ昆虫の家のホームページ:http://www.tokoro.knc.ne.jp/
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